痛かった日曜日
目から火が出た
小学校に上がってすぐか、その前か覚えていない。庭を走っていて、飛び石につまずいた。一瞬、自分が転ぶということがわかって、今からぶつかる石が目の前に迫ってくる光景は、はっきり覚えている。
その後、我が家でどんな処置をしたのかわからない、どこかの病院に行ったのだろうか。
おでこに傷跡が残ったけど、母は前髪に隠れるから大丈夫と言った。実際何も気にはならなかったが、大丈夫と言われた前髪はどんどん後退して、今では傷跡よりずっと上に髪の生え際が上がってしまった。触ればおでこの骨がごつごつと出っ張っている。
救急車
三島駅で新幹線に乗るとき、出発間際で急いだせいもあって、階段で転んでしこたま膝を打ち据えた。ものすごく痛くてとても歩けない。ほとんど片足でぴょんぴょんと電車に乗り込んで、何とか席には着いたけど、痛みは一向に治まらない。
治るどころか、だんだんひどくなるようで、このままでは電車から降りることもできない。隣に妻が乗っていたけれど、どうすることもできない。
無理を承知で、車掌さんに新横浜のホームからタクシー乗り場まで、車椅子の手配をお願いした。
新横浜駅に着くと二人の駅員さんが車内に乗り込んできて、担ぐようにして降ろしてくれた。ホームには車椅子が用意してあって、新幹線のサービスは大したものだと思う。
駅員さん、車掌さん、ありがとうございました。
そのまま改札を通ってタクシー乗り場に案内されるかと思っていたら、そこに待っていたのは何と救急車だった。
これに乗って、どこの病院に連れて行って頂いたのか、よく覚えていない。妻は横で信号を無視して走る救急車に大喜びをしている。
私にとってはクッションが硬く、ごつごつして乗り心地の悪い救急車は、痛みが響いて面白くも何ともない。
とにかく、病院に着いて診察室に入ると、担当の先生は私のズボンの右側を、何の迷いもなく切り裂いた。結構高価なズボンだったのに。
レントゲンをとって診察をして、今は固定だけをすればよい。処置は比較的早く終わって、どうぞお帰り下さいと言われた。ただし、骨ではなく、膝の下の軟部組織の打ち身なので、痛みが長引く可能性があります。
丁重にお礼を述べて、病院を出たまではいいけれど私の片方の足はズボンを履いて、もう片方は裸で何とも奇妙な格好をしている。妻は誰も見ていないというが、反対の立場だったら、どれだけ騒いだことか。
バスタオルがなければ、そこのカーテンを破ってこいとか言うかもしれない。
ともあれ、みな様のご親切がつながった結果で、それはとても感謝をしているけれど、救急車にはどうも嫌な思い出がある。もっとも救急車を楽しむ病人などいないだろうが。
日曜日の怪我
先日3歳になったばかりの孫娘が遊びに来た。ベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねて、遊んでいたのはいいけれど、突然大きな泣き声が聞こえてきた。飛ぶ方向を間違って、箪笥の角にでも当たったのだろう、後頭部に数センチのかなり深い傷ができた。テープの固定ではとても無理で、これは縫合をしなければならない。
我が家に手術器具は一応あるけれど、なにせ眼科なので極細の糸しかない。
休日でも、公の救急医療体制は一応整っていることになっていて、連絡ができる機関には全て連絡をしたけれど、救急の受診はかなわなかった。
理由はいろいろあったけど、たまたま医師がいない。あるいは担当医が内科のため、縫合はできないなど。地域の救急医療体制は、額面上あらゆる怪我や急病に対応しているけれど、思った通りに機能していないかもしれない。
私の先輩は88歳になってから、嫌に病気がちになって、いつ何が起こるかわからない。特に3連休などと聞くと不安で仕方がないと言っていた。
最後の手段は救急車だけど、3歳の子供が何時間も待って、頭の毛を剃られて帰ってくるのは見るに忍びない。
こんなピンチになって、地域の先生方に助けを求めたところ、主に皮膚を扱う先生が太い針糸を用立ててくれることになりました。
先生、こころから感謝を申し上げます。
おかげ様で孫をタオルでくるみ、声をかけながら手をつないで、手早く縫合ができました。2週間ほど経って抜糸をすれば、何事もなかったよう。
それにしても日曜、祭日、おそらく夜中の東京は医師が足りなくて、現状は医療僻地に近い。多分日本中がそうだと思う。
実際医師を対象にとったアンケートでも、ほぼ半数の医師が救急医療の不足と回答している。
以前、近隣の大学病院が日曜日の医師不足を補うため、開業医を募って運営する救急医療を試みたことがあった。私も手を挙げたけど、その後声がかからなくて、あの構想はどうなったのかわからない。
結果はともあれ、地域の救急医療に積極的に取り組まれた教授の熱意には敬意をもって賛同する。
いずれにしても、今は医師不足である。ただ、美容整形の医院だけは嫌に増えたように感じるが。
医師がいない上に働き方改革で、労働時間は制限される。そこに国の政策か、製薬会社の影響か、健康診断などの業務が加わって、大切な時に大切なところに医師がいない。