九品仏3:閻魔様
忌中
九品仏の総門をくぐるとすぐ左側に閻魔堂がある。その手前には橋がかかっていて、下を流れるのは三途の川。こちら側が現世で此岸。川を渡ればあの世で彼岸である。そこに焔魔堂があって、中央にはもちろんひときわ大きな閻魔様。左側には奪衣婆(だつえば)、右側には懸衣翁(けんねおう)が座っている。
三途の川を渡って閻魔様の裁きを受けるというのは、誰でも知っている話。ところがことはそう簡単なものではなくて、諸説あるけれど死後の世界は極めて複雑である。人は死ぬと亡者となってさまよい歩き、7回にわたって生前の行為について裁きを受けなければならない。その日程および担当官は以下の通り。
第1回 7日目:不動明王
生前の行為について書類審査が行われる。等々力のお不動さんは美しい自然の中にあって、心癒されるけど結構血も涙もない審査が行われるのである。
第2回 14日目:お釈迦様
ここにあるのが今回話題の三途の川。三途の川には橋がかかっていて、川岸には依領樹(えりょうじゅ)という大木がある。その横にいるのが奪衣婆と懸衣翁。まず奪衣婆が死者の衣服をはぎ取って、懸衣翁が大木の枝にかける。すると生前に犯した罪の重さによって枝がしなる。
善人は三途の川にかかった橋を渡っていくけれど、悪人は川を渡らなければならない。渡る場所は罪の重さによって浅瀬であったり急流であったり。どうしても川が嫌ならば、六文の船賃を払うと渡し舟に乗ることができるのです。地獄の沙汰も金次第。
たかが川を渡るだけでなぜ、そんなに嫌がるのか。そこに流れているのは清流ではなく、三途とは三悪道のことで地獄道、餓鬼道、畜生道を渡らなければならないから。
第3回 21日目:文殊菩薩
第4回 28日目:普賢菩薩
第5回 35日目:閻魔様
特に閻魔様の裁きのときには、嘘をつくと舌を抜かれるとこになる。私の場合、2枚しかない舌のうちの1枚を抜かれるので、収まりはいいかもしれないが。
この時の裁きで、なぜ、嘘がばれるかと言えば、閻魔様の前に大鏡があって、死者がこの前に立つと生前のあらゆる悪行が映し出されるから。今でいうプロジェクションマッピングのようになっているのかもしれない。自分が酔っ払っている姿や、肉に喰らいついているところが映るのだろう。
第6回 42日目:弥勒菩薩
第7回 49日目:薬師如来
この裁きが最後で行き先が決まる、最高裁の判決のようなもの。地獄に落ちなければならない悪の所業とは、殺生、うそ、盗みに享楽、そして酒。どれか一つでもアウトだからみんな地獄にいく。
九品仏の閻魔様
ほとんどの人が地獄に行くことになるだろうが、九品仏の閻魔様の場合は地獄に落ちないよう、たった今いろいろな教訓を下さる。賽銭をいれると、大きな声でお告げがあって、その内容とは。
「嘘はつくな」
「ありがとうの精神を忘れるな」
「善は急げ」
「怒ったときには深呼吸」
・・・・・他にもいろいろ
これでどれほどの人が救われるかわからないが、いずれにしても輪廻転生。今後も、六通りの生まれ変わりを繰り返さなければならない。これを六道といって、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上。どこに行っても苦悩はつきまとうもの。それを救ってくれるのが六地蔵で、九品仏の場合、焔魔堂を出て正面にあるのです。
九品仏の場合、閻魔様のお告げといい、六地蔵といい苦しみから救ってくれる配慮がそこかしこなされているのです。