こころの2:地球と生命
血の池地獄、かまど地獄と聞くと恐ろしい気がするけれど、実は別府で巡る温泉の名称で、こんな地獄なら行ってみたいと思う。
仏教で言うところの地獄とはもっと恐ろしいところで、それは八段の階層に分かれているのである。相撲でいえば横綱を頂点とした、大関や関脇のような階層でこれを八熱地獄という。最も浅いところにある等活地獄ですら、鉄の爪で身を引き裂かれるという恐ろしさ。あとの地獄は推して知るべし。
説法はともかくこの世に本物の地獄があったとすれば、それは天の川が衝突してできた原始地球で、鬼も住めない火の玉であった。ここに水を含んだ惑星が落ちてきて海と陸ができたけど、当時の海は重金属イオンを含む強い酸性で、生命が誕生するべくもない。
この地球全体の形を例えてみれば、溶けかかった森永ピノ。アイスクリームを薄いチョコレートで包んだお菓子の中が溶けていく。すると、半分液状になった表面のチョコレートがひび割れて、これがアメリカ大陸やアフリカ大陸によく似ている。大昔の地球では、ひび割れたチョコレートがアイスの上をゆっくりすべる感じで大陸が移動をした。これが力作のピノ地球。
アミノ酸から生命の誕生
こんな環境の中で何かの強烈なエネルギーによって、生命のもととなるアミノ酸ができた。それは海底火山のエネルギーとも聞くし、宇宙線のエネルギーでできたアミノ酸が、氷塊とともに地球に落下したとも聞く。
ともあれこのアミノ酸をもとに、もっと大きな核酸という物質が現れる。これは酵素と一緒になって、自分自身と同じ形の分身を作る性質をもっていた。これこそが生命の元でリボザイムと言う。この頃には地球の様相もだいぶん穏やかになって、鬼が住めるくらいの環境になっていたのだろう。
子供みたいだけれど、私はこういうことを想像する時間が大好きなのです。人が見ればボーッとして窓の外を眺めているだけですが、
*このリボザイムがどうやって恐竜になったか。
*いっそ松坂牛にでもなればよかったのに。
*何億年もたって、人はいつごろから音楽や詩歌を楽しむようになったのだろう。
こうして夢心地で過ごしているときに、妻のひと声で現実に引き戻される。
「あなたは何度呼んでも返事をしない!」
いえ、決して故意に返事をしないのではなく、本当に何も聞こえないのです。こういう時には、目の前に不機嫌そうな妻の顔があって、
*あー、リボザイムが進化をして、今はこんなに怒っている。
そのリボザイムがいたのは栄養がたっぷりで温暖な海の中だった。しかし、いつまでもぬるま湯の状況は続かない。ちょっとでも環境が悪くなると、すっぴんのリボザイムは死滅をして、たまたま脂肪酸の膜を被ったリボザイムだけが生き残る。
これが原始の細胞。細胞膜の外からエネルギーを取り入れて
「生きている」
ようになった。
その後も森永ピノのような地上では、チョコレートの大陸が地球の中に沈みこんだり、厚い雲に覆われた地球が全球凍結をすると、ほとんどの生物が死滅をする。沈みゆく大陸の縁に、わずかでも生命が残れば子孫を残す。何かの拍子に突然変異をして、うまい具合にその時の環境と相性がよければ、新しい生命が栄えてこれを進化と言う。
世界の環境が変われば、ついていけない生命が死滅するのは当然。次の生命と入れ替わって、絶滅と進化は紙一重。
ちょっと前になるけれど、何億円もかけてトキの絶滅を防いで、あれは正しいことだったのだろうか。
産業革命が作る新しい生命
白いイルカや金色のオコゼといった、突然変異の話を聞くが、イギリスに生息するオオシモフリエダシャクという蛾の有名な話です。もともと白っぽい蛾だったけど18~19世紀にかけて、ある時から黒っぽい蛾が目立つようになった。
当時のマンチェスターは産業革命のために、街は煙が充満。蛾が生息していた樹木は黒く染まって、白っぽい蛾はこの木にとまると、たちまち鳥に見つかって食べられてしまった。たまたま黒い色に生まれると、この方が目立たないので、多くの蛾が生き残る。やがて集団の遺伝子が置き換わって、ほとんどの蛾が黒く生まれるようになったのです。
こうしてみると、蛾が知恵を働かせて黒くなったように見えるけど、それは間違い。生き物は進化をしようとして、進化をしたのではなく、たまたまそのときの環境に馴染んだものが生き残った。
後に汚染対策が施されて、空気がきれいになると、蛾は再び白っぽくなったそうです。
生命の誕生と進化
その進化の出発点にいた生き物は、酸素を嫌う細菌であった。しかし、酸素を生み出すシアノバクテリアが繫栄すると、今度は酸素を利用する生命が地上に生まれた。この生物はより大きなエネルギーを生み出すことができるので、生物のサイズは次第に巨大化をして100万倍にもなった。
こんな単純な過程ではないけれど、長い年月が経って地上を恐竜が闊歩した時期があった。しかし、大きな隕石の落下事件とともに、恐竜の時代も終わり。
新しい生命の大進化が起こり、その片隅でネズミのような生命から、今につながる哺乳類の進化が始まったのです。
人類の原型が誕生したのは500万年前。人類にはたまたま脳を大きくする遺伝子の領域があって、噴火のような危機を乗り越える度に、脳は大きくなった。
やがて、人は意志をもつようになった。記憶力が発達すれば心が芽生える。
この先がイギリスの蛾と少し違うところで、人類は危機に出会ったとき、突然変異に頼らず、自ら運命を変えることができるのでしょうか。
再び、巨大隕石の落下や、地球の寿命がきて氷の地獄と化したら、それは仕方がないけれど、せめて温暖化の阻止くらいは。